惜しまれつつも閉店した大阪で最も旨いうどん屋、北新地の「はがくれ」。
クセのある大将が懇切丁寧にうどんの食べ方を教えてくれた名店だ。
「うどんぐらい好きに食わせろ」と叫びたいのを我慢し、大将の言う通りに醤油を2周半回した冷やし生醤油うどんは絶品だった。
それも、2本ずつ口に運ぶことを推奨される。
「はがくれ」には大阪に出向く度に寄っていたのだが、閉店後は大阪でうどんを食べる事はなくなった。
そんな中、「はがくれ」で修行をし、その味を受け継ぐ店があると聞けば、行かずにはいられまい。
地下鉄四ツ橋線・肥後橋駅が最寄の、新たな名店「木田」である。
また、あのうどんが食べられるのかと思うと、自然と笑みがこぼれてしまうが、少し気になる情報も入ってきた。
なんと木田では、注文してからうどんが提供されるまでに60分もの時間がかかるとの噂だ。
サラリーマンの昼休みでは絶対に間に合わないであろう待ち時間に仰天しながらも、その噂の真相を確かめにお邪魔してみた。
クセのある「はがくれ」の大将の弟子だ。木田の大将もまたクセがあるのか。それならば、提供まで60分の噂もまんざら嘘ではないだろう。
木田の外観と雰囲気/えっ?ほんとに飲食店あるの?
グーグルマップのナビ通りに駅から歩くと、民家の勝手口に繋がっているような、ものすごく狭い路地に入っていく。
もはや道かどうかも分からない、家と家の間を通り、「ここは私有地で、通ってはいけないのでは?」などと不安に思う頃に、突如木田の建物が現れる。
一本向こうの土佐堀通りからでもアクセス可能だ。
ただし土佐堀通りから木田の外観は確認できない。写真の路地を左に入っていこう。
店内はカウンター席のみで、厨房に向かって7席、厨房の背を向ける形で壁に向かって8席ある。
木田で実際に冷やし生醤油うどんを食べた感想/素直に旨い
入店すると、先客が4人ほどいた。すでに1人は食事中なので、提供を待っているのは3人ということになる。
女将であろう美人な女性に「提供まで30分かかります」と告げられた。噂の半分の時間ではあるが、提供待ちが3人しかいない状態で30分とは、いったいどんな理屈なのだろうか。
よくよく観察していると、15分単位でうどんを提供しているようである。木田では注文が入ってから生地を延ばし、切る。恐らく茹で時間もかかり、15分なのだろう。
釜の容量的にも、一度に茹でる量が限られるのか、4人目の僕が30分かかることからも、最大で3人前の調理が限界のようだ。
つまり、開店と同時に15席が満席になれば、15人目の客にうどんが提供されるのは早くて75分後という計算になる。
木田では、うどんを茹でている間に次の客の生地を延ばしたり、そういった効率的なことはしない。
なぜなら、釜を担当する店主自ら、茹で上がったうどんに客の前で最後のひと仕上げをするパフォーマンスを行うからだ。
そのパフォーマンスが終わり次第、次の客のうどんに取り掛かる。
うどんを揚げたやつ
さて、何度も言っているとおり、木田では注文から提供まで時間がかかる。
その待ち時間にちょっとしたスナックがサービスされた。正式名称が分からないので、「うどんを揚げたやつ」と呼ぶことにする。
うどんの切れ端を揚げて塩を振ったものなのだが、これがなかなか旨い。ビールを飲んでいれば最高の肴になったのだが、この日は我慢した。
冷やし生醤油うどん
待つ事30分、いよいよ注文したうどんが完成したようだ。
「はがくれ」と同じく木田の人気名物メニューは冷やし生醤油うどんで、まずは薬味が運ばれてくる。
続いて大将自らうどんの仕上げのパフォーマンスだ。
大根おろしとネギを豪快に手掴みでうどんに乗せ、スダチを絞る。そこへ生醤油を2周半回す。
「はがくれ」のDNAを受け継ぐうどんを目の前に出されては、よだれが垂れずににはいられない。
やはり「2本ずつ食べろ」と指定があったので、その通りに食べた。
白くひかり輝いた艶のあるうどんは、少し細め。ビジュアルは「はがくれ」そのもの。
生ぬるい冷やしを出す店も多い中、木田ではしっかりと氷で締め、確かなコシが感じられた。歯を押し戻す心地よい弾力が嬉しい。
「はがくれ」の大将の口癖である‟うどんは刺身”が、まさにその通り。口に入れるとモチモチとした食感のうどんが、まるで活きの良い魚のように喉に滑り込んでくる。
後追いのスダチの爽やかさも手伝い、後味もスッキリだ。「はがくれ」のDNAは伊達ではない。
十品目のかやくご飯
大将の実家は道頓堀で100年続く老舗の大黒屋だそうで、大黒屋仕込みのかやくご飯も楽しむことができる。
ご飯は比較的柔らかめ。これは好き嫌いが分かれそうではあるが、味が最高である。
十品目の具材が非常に細かく刻まれており、輪郭がしっかりしている出汁に旨味を加えている。
どこか懐かしい、昔ながらの素朴なかやくご飯だ。
天盛
うどんと相性の良い天盛も注文した。椎茸、那須、海老、アスパラ、玉ねぎ、さつまいもと、種類豊富。
厚衣でしっとりした食感の天ぷらは、天つゆとの相性が良い。揚げ過ぎず絶妙な揚げ具合で、素材の味もちゃんと感じるひと皿だ。
塩も提供されたが、個人的には薄衣でカラッと揚がった天ぷらのほうが塩と合うような気がする。
木田のその他メニューと価格
<冷>
ざる…650円/生醤油…700円/冷かけ…650円/ぶっかけ…650円
納豆ぶっかけ…800円/海老天ぶっかけ…900円
ちく玉天ぶっかけ…900円/とり天ぶっかけ…900円
山かけ…900円/天ざる…1,100円
<温>
釜あげ…650円/生醤油…700円/釜玉…700円/かけ…600円
きつね…750円/きざみ…700円/月見…650円
天ぷら…1,000円/天釜…1,100円/カレー…850円~
おでん…各150円/半熟卵とちくわの天ぷら…300円
ガリ天…200円/野菜天…550円/天盛…850円/白飯…150円
十品目のかやくご飯…300円/玉子めし…200円
※当記事内の価格は全て税込
木田の基本情報、営業時間とアクセス
【住所】大阪府大阪市西区江戸堀1丁目23−31
【電話番号】06-6441-1139
【営業時間】11:00~16:30(土曜日は14:30)
【定休日】日曜日
【キャッシュレス】不可
【アクセス】地下鉄四ツ橋線「肥後橋駅」2番出口より西へ徒歩3分
立地:★★★☆☆/駅から近いが分かりにくい場所
コスパ:★★★★★/値段以上のうどんが味わえる
清潔度:★★★★★/とても綺麗
接客:★★★☆☆/好き嫌い分かれそうな接客
入りやすさ:★★★☆☆/提供までの待ち時間がネック
名店「はがくれ」のDNAを伝承。木田のうどんは注文から60分まとめ
名店「はがくれ」の大将同様、やはりクセがあった。
注文から提供までの待ち時間も、大将と女将の軽快なトークも、やはり人を選ぶ店ではないだろうか。
多少の空回りも否めない接客は、運良く厨房側のカウンターに座れれば問題はない。
しかし、厨房に背を向けて座る壁際のカウンターに座った人はどうだろうか。大将と客との会話ばかり後ろから聞こえてきて、うどんはなかなか出てこない。
丁寧な仕事をしているのだろうが、良くも悪くもマイペースな店なのである。
だが、待たされる甲斐あって、うどんは絶品である。ぜひ時間に余裕のある時に2本ずつ啜ってほしい。
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