広島の観光地で真っ先に思い浮かぶのが、原爆ドームではないだろうか。
世界で初めて原爆が落とされた広島において、その痛々しい被爆の姿を知ることができる、とても貴重な建物だ。
昭和20年8月6日午前8時15分、米軍のB29爆撃機により原子爆弾が投下され、上空約600メートルで爆発した。
チェコ人が設計した広島県物産陳列館は、爆心地から僅か160メートルの至近距離。
爆風と熱線を浴びて大破し、のちに「原爆ドーム」として後世に原爆の恐ろしさを伝える世界遺産となった。
原爆ドームを前にすると、目を塞ぎたくなるような悲惨な姿が視界に広がる。
ほとんどの壁は崩れ落ち、がれきに取り囲まれ、かつてそこに人がいたことなど想像もできない。まるで廃墟だ。
この姿を見た多くの人は悲憤慷慨するに違いない。
楽しい気分になる観光地ではないが、ぜひ一度は訪れるべき施設である。それも、ある程度は戦争や原爆についての知識があるほうが望ましい。
この記事では、原爆ドームについて必要最低限の解説をする。流し読みでも構わない。現地に出向く前に予習として活用していただければ幸いだ。
①あまり観光の時間が取れない人
②戦争の悲惨さを深く知りたい人
③歴史好きな人
原爆ドームは平和記念公園の中にある。平和記念公園には他にも平和記念資料館やおりづるタワーなどの施設もあり、同時に周ると効率が良い。
JR広島駅から路面電車「広電」で15分
<JR広島駅から往復含む観光時間目安>
1時間(原爆ドーム単体の場合)
<交通費含む観光費用目安>
500円(原爆ドーム単体の場合)
原爆ドームの見どころ・観光ポイント
原爆ドームは被爆した建物をそのまま保存している施設である。被爆による火災で全焼したままの姿のため、中に入ることはできない。柵の外からの見学となる。
したがって、入場料などは存在しない。24時間いつでも無料で見学できる。
見どころ①時間が無い人もサクッと見学できる
原爆ドームはそこまで大きな施設ではない。しかも、外からの見学のみの為、10分もあれば事足りるだろう。
むしろ原爆ドームの見学は、戦争について考える事が真骨頂。帰路の途中で、ホテルの部屋で、自宅の居間で、ぜひとも目に焼き付いた原爆ドームの姿を思い出してみよう。
見どころ②戦争の悲惨さが嫌でも分かる
日清戦争で大本営が置かれたことから、急速に軍都として発展した広島。経済規模も拡大し、製品の販路確保が急務となった。
その拠点として建設されたのが広島県物産陳列館、のちの原爆ドームである。
昭和20年8月6日午前8時15分、爆心地から約160メートルという至近距離で被爆した広島県物産陳列館は、爆風と熱線を浴びて大破した。
爆発後、広島県物産陳列館はわずか0.2秒で、熱線に包まれることとなる。日光の数千倍もの照射エネルギーにより、地表温度は3,000℃に達した。
そして0.8秒後には、衝撃波を伴う秒速440メートル以上の爆風が襲う。音速以上となる爆風の影響で、35トンもの爆風圧(1㎡あたり)の影響を受けた。
壁は崩れ落ち、窓ガラスは溶け、階段は捻じ曲がる。奇跡的にドーム部分だけが残存した。当時、建物内で勤務していた職員約30名は、全員即死したとみられる。
これだけのことが、爆発からわずか1秒以内に起きているのだ。
その痛々しい姿のまま保存されている原爆ドームの前に立ち、あなたは何を感じるだろうか?
見どころ③被爆から現在までの経緯
戦後、広島県物産陳列館の残骸は、頂上の円盤の形から、「原爆ドーム」と呼ばれるようになる。
復興が進み、市内の被爆建物が次第に姿を消していくと、原爆ドームの存廃議論が活発化していった。
当時、「戦争の悲惨さを忘れないためにも残す」とした保存派と、「危険建造物であり、悲惨な記憶を呼び起こすことになる」とした解体派に二分され、議論は平行線を辿ることとなる。
そして昭和41年、被爆から21年もの歳月が経ち、ようやく広島市議会で原爆ドームの保存が決議されたのだ。
保存にあたっては、被爆当時のままの姿を残すことが重要とし、外観を変えずに崩壊を防ぐ工事がおこなわれた。
翌年に保存工事が終わった後も、現在に至るまで定期的に、風化を遅らせる為の工事がおこなわれている。
被爆より50年となる平成7年には、国の史跡として文化財に指定された。その翌年、ユネスコの世界遺産へ登録されたのを契機に、今もなお様々な国籍の人が見学に訪れている。
原爆ドームの豆知識・知っトク情報
ここまで、被爆の経緯や恐ろしさにスポットをあてて解説してきた。
この項目では、原爆ドームをより深く知るための豆知識を3つほど紹介していく。
豆知識①法律をも変えた原爆ドーム
平成4年、日本政府の世界遺産条約の受諾を機に、原爆ドームを世界遺産候補にすることを求めた署名が、全国で165万以上も集まった。
当時、政府は「その遺産が文化財保護法の適用を受けていることが、世界遺産推薦の条件」としていたが、歴史の浅い原爆ドームではその適用を受けられなかったのだ。
しかし平成7年、署名運動の盛り上がりを受け、文化財保護法に基づく史跡名勝天然記念物指定基準を改正。原爆ドームを国の史跡として文化財に指定し、世界遺産への推薦もされた。
豆知識②指定文化財の弊害
世界的にも貴重な建物であることが認められ、平成7年に国の史跡として文化財に指定された原爆ドーム。
しかし、指定文化財は文化財保護法に左右され、様々な弊害が出ているという。
その最たるものが、保存工事だ。
原爆ドームは被爆の姿をそのまま残す保存工事がおこなわれている。つまり「破壊された建物を破壊されたまま残す」わけで、健全な建物を補修するのとは勝手が異なる。
例えば、崩壊したままの建物に対しての「耐震」という発想が無いため、耐震強度計算はあくまでも理論上の数値に基づく。
その為、加重のかかり方が想定外の場合、常に崩落の危険性を抱えているのだ。
そこで、地中に免震装置の配置も検討された。しかし、国の史跡は地盤も含めて文化財。地盤から切り離すことはできない。
さらには、どんなに小規模な修復であっても、いちいち国の許可が必要となった。文化財への指定以前のように、広島市の意向だけで柔軟な保存工事ができないのだ。
豆知識③至近距離で被爆したのに全壊しなかった理由
爆心地からわずか160メートルの至近距離で被爆した原爆ドーム。
周辺の建物が全壊した中、なぜ原爆ドームは全壊せずに、ドーム部分が残ったのだろうか。
専門家の調査により、2つの偶然が重なったことが、全壊しなかった理由として推測される。
①至近距離であったことから、爆風の影響が真上からに限定された為。耐力の弱い屋根を中心に崩れ、厚く作られていた側面の壁は完全な倒壊を免れたのだ。
②ドーム部分の構成材に銅が使われていた為。建物の本体部分に使われている鉄と比べ、銅は融点が低い。そのため、爆風到達前の熱線の段階ですでに融解していた影響で、爆風が通過しやすい環境となっていた。
原爆ドームでの記念撮影は不謹慎か
僕が原爆ドームに訪れた時、修学旅行の学生が原爆ドームを背景に、右手でピースサインを作り記念撮影をしている場面に遭遇したのだ。
原爆ドームがどのような場所なのか、修学旅行へ行く前に学校で教えないのだろうか?
そんな疑問を抱きながら、モヤモヤした気持ちで広島を後にすることとなった。
帰宅後、僕は「ピース写真なんて不謹慎」という思いが頭の片隅に残ったまま、今、この記事を書いている。
しかし、この記事を最後まで書き終えて、また新たな疑問を抱くことになったのだ。
不謹慎だと思う気持ちは、「戦争について考える機会」を奪う結果になるのではないだろうか、と。そして、この項目を急きょ追加した。
原爆ドームがある平和記念公園は、春になると花見にも使われなど、観光資源であると同時に広島市民の憩いの場としても機能している。
では、原爆ドームのお膝元にシートを広げて酒盛りをするのは不謹慎ではないのだろうか。
「ピースサインは不謹慎だ」「いやいや、カメラを向けること自体が不謹慎」「シートを広げて花見なんて不謹慎」
「不謹慎だ」と思う人もいれば、「問題ない」と思う人もいる。
原爆ドームの姿を一目見れば、誰もが戦争について何かしらを考えるであろう。ピースサインで記念撮影した学生も、平和記念資料館で何かしらを考えたかもしれない。もしくは帰路で、もしくは自宅で、大小はあれど何かを考え何かを感じたはずだ。
大切なのは、戦争について何かを考えるきっかけとして、原爆ドーム(平和記念公園)の地を踏むことである。
まるで「来てくれるな」と言わんばかりに「不謹慎だ」と一喝してしまっては、その機会を奪う事になりうるのではないだろうか。
原爆ドーム付近でオススメの飲食店
原爆ドームのある平和記念公園は、広島市屈指の繁華街である八丁堀からも、徒歩圏内である。
この辺りには、広島でしか味わえない魅力的な飲食店が数多く存在している。
その中から、わんたびお勧めの2店を紹介しよう。ぜひ原爆ドームとセットで味わってほしい。
オススメ①プロの技!広島風お好み焼きは「かんらん車」で
熟練の職人が焼く、最高に美味しいお好み焼き屋「かんらん車」。
原爆ドームからも徒歩5分程。
オススメ②ビートルズ一色のカフェ「イエスタディー」
ビートルズが流れる店内で、小粋なモーニングを。原爆ドームへは徒歩10分程。朝の散歩を兼ねて、モーニングとセットで原爆ドームの観光を楽しみたい人向け。
原爆ドームの詳細な基本情報・アクセス
<住所>広島県広島市中区大手町1−10
<電話番号>0822427831
<営業時間>24時間
<定休日>無し
<入場料>無料
<電車アクセス>路面電車「広電」原爆ドーム前駅下車
<車アクセス>JR広島駅より城南通り経由10分
負の世界遺産を観光「原爆ドーム前でピース写真は不謹慎か?」まとめ
このブログでは様々な観光地を紹介している。その全てで、実際に僕が足を運んだ時の感想を織り交ぜている。
しかし、この原爆ドームの記事に関しては、訪れた時の感想はあえて必要最低限に留めて書いた。
なぜなら、重要なのは「僕が感じたこと」ではなく、「あなたがどう感じるか」だと思ったからだ。
その結果、広島県物産陳列館におこった被爆当時の惨事や、その後の原爆ドームとして現在に至るまでの経過がメインの記事となった。
僕は広島へ出向く前にも、原爆ドームについて、戦争について、原爆について、いろいろ調べものをして臨んだ。
実際に原爆ドームを見学する前から考えさせられることが多かったのが、印象に残っている。
そして実際に現地で見学してまた考えさせられ、帰路の飛行機の中でも、自宅でもいろいろ考えた。
そしてこの記事の執筆にあたり、再び調べものをしてまた考えさせられ、書き終えてもなお考えさせられ項目を追加したりもした。
きっと、あなたも何かを考え、何かを感じるはず。この記事が、そのきっかけとなることを切に願うばかりである。
そして、現地を訪れて、実際に何かを感じたならば、ぜひともコメント欄にコメントを残して頂ければ嬉しい。
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